○裁判長 主席検察官
○キーナン検察官 さて裁判所に対して、裁判所条例第十二条A項を試行せしめることにおいて援助をするために申上げますが、ただいま引用しました条項は次のごとくであります。第十二条審理の執行(イ)審理を起訴事実に付生じたる争点の迅速なる取調に厳格に限定すること、これに基づいて検察側は東郷被告の有罪なることを主張する上において、東條内閣に就任したる期間以後になした事実によつて、その有罪の判決をお願いする次第であります。しかし、こういうことを申したからといつて、その時期より、すなわち彼が入閣した時期より以前に始まつたところの共同謀議に、彼がそのときから参加したということに関するところの検察側の訴追事項を、放棄するという意味ではないのであります。
すなはちただいま述べたところの留保条項というのは、一九三九年に彼がソビエツト連邦に大使としてその使いをした期間、それからその期間においてノモンハン事件によつて彼の背負うべきところの犯罪的行為、もしありとせばそういうことに関するところの留保事項であります。それから第二にわれわれは、東郷氏が署名いたしましたところの満州国、蒙古人民共和国になされました国境確定に関するところのモロトフ、東郷協定に関する文書に署名したことについて、東郷に尋問をしたいのでありまして、この協定というのはとりもなおさずノモンハン事件に東郷及びモロトフによつて署名されましたところの国境確定地図であります。ただいまこれを申しますのは、法廷の時間の節約するためと、記録の煩雑を防止するためとでありまして、そのほか関連性のない文書ありましたならば、ただいま申上げましたことについての関係がない文書がありましたならば、容認すべき性質でないということを前もつて申上げておきます。こう申しますのは、特に最近、われわれの方に配布されました文書の性質を調べることによつて、われわれが考えたのでありますが、関連性のないものがその中に散見せられるのでありまして、前もつてこれを法廷に申上げておく方が、われわれとしては公正であると考えたからであります。
○ブレークニー弁護人 この件につきまして先週の金曜日より、主席検察官と私との間に協議を行つたのであります。と申しますより、この前の金曜日に最初に取上げられ、再び本日協議したといつた方がよいでしよう。しかしながら検察側とどういう条件をもち出すかということに関して、ただいま検察官が申した言葉を、初めてそのはつきりした条件の輪郭をここで知つたわけなのであります。しかしながらこれらのただいま言われましたことが、文書にどういう影響を与えるか、また文書の容認せらるべき性質にいかなる影響を与えるかということに関しましては、文書が提出されるたびに一々その価値、その関係及びその意味というものを取上げて、議論したらよいと思うのであります。従つて私は証拠提出順序表の一番より始めることにいたします。私は最初の証人としまして有田八郎を呼ぶものでありました。しかしながら発表するにはあまりに遅くになつてしまつたのでありますが、今日になつて初めて有田証人の健康診断書、病気証明書を入手したのでありまして、これを私はただいま証拠として提出いたしますが、後ほど作製して検察側に渡すことにいたします。―検察側の方ではただいまの私の申入れを容認して、病気であるということを認めるそうであります。
従つて診断書の提出を撤回いたします。しかし、いずれにせよ私は弁護側文書1081号すなわち有田八郎氏の宣誓口供書を、証拠として提出させていただきたいと思います。
○裁判長 通例の条件付で受理します。
〔付記 弁護側文書1081号は法廷証3609号といたします〕
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