悠久の宇宙と比較しなくても地球の生命と対比しなくても、ほぼ人類の発生せしと覚しき年代に比べても、一世紀や二世紀の長さは重要視するに及ばぬことは明らかである。しかし現代人より見れば、一世紀は重大の意義があり、殊に第一次世界戦争は人生初めての大動乱期に際会せるのであるから、文明史上から見ても相当の重要性を付与するは当然と云わなくてはなるまい。予はここに予の公的生涯を通ずる期間、即ちあたかも第一次世界戦争勃発の頃より第二次世界戦争終末に渉る間に於て、予が直接見聞せるところ並びに関与した事件に就て率直なる叙述を為さんとするのである。
従って本書の目的は予の自伝に非ず、また自分の行動を弁解せんとするのでもなければ、日本政府のとった政策を弁解せんとするのでもなくして、自分が見た時代の動きを記述することを本旨とし、自己が見聞しかつ活動せるところに就き、主として文明史的考察を行わんとするのである。しかし時代の進みも自分の働いていたところから見ることになるので、章節の分け方はこれに従いたるところがあり、一方自伝的色彩を帯ぶるところが少なくないかもしれない。また時代の推移並びに予の直接関与せる程度よりして、記述の重点が太平洋戦争に存することは当然である。
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