2015年6月20日土曜日

書庫(36):東郷茂徳「時代の一面」附録の短歌(I)より

天日を貫く誠はとこしへに滅びぬものを何にか思はん

己れ我れ神になりたる氣持もて世の人々にゆるやかぞあれ

(九月以降の分)
人の世は風に動ける波の如と其わたつみの底は動かじ

世の事は聴きもほりすれわれに世を動かす自由ありたればこそ

我はこゝに慎み居れり但しこれ御國に對するものとこそ知れ

人の世は岩に碎くる水泡(みなは)なれ其の元河(もとかわ)は流れて息まず

世の人の多くは旅路の伴(つ)れなれや朝(あした)に語りて夕に別る

丈夫の力の限り盡し來ぬ獄屋の夜を靜かに眠る

危かる命を各(おの)は生き堪えぬさらによき世にあはざらめやも

時折は高嶺の上に獨り居り眠れる下界を見渡す心地す

鐵窓に來觸る風のさやけきに秋の風の動くを知りぬ

朝毎に空のさやけさ加はりぬ秋の心の動くなるべし

あぢさいの花を見しのち花を見ず秋の野原を只偲ぶのみ

眞心が政事にも行きわたる來らん世こそ待ち遠しかな

神代より黒潮の香に洗われし笠さごの岩神さびて立つ

薩摩瀉黒潮寄する潮の香にますら丈夫は健(たけ)くこそあれ

厄日前頻りに動く雨雲の世界のさまにさもよく似たり

秋雲のとく動くには非ずして人の心の騒ぐなりけり

高原のさやかに澄める秋空の雲の心にわれよく似たり

秋の日の澄める心の深みつゝ憂國の思ひなどかしげしき

運命の逆立つ波を漕ぎ抜けて人の自信は潮(しほ)滿つがごと

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