2015年6月21日日曜日

書庫(37):東郷茂徳「時代の一面」附録の短歌(I)より

巨船(おおふね)の沈める後もわだつみは潮干潮滿ち其儘に行く

六十路過ぎ宇宙の姿ひたと見つ愛は進歩の大筋なるぞ

賤やしづしづの小田巻繰り返し同じを生くる更に厭はず

秋の日の清き光りに現し身も塵一つだに留めぬ思ひす

秋の日の澄み渡りたる大空に如來の姿と寫りやもする

休廷后春秋逝きてもきまりかぬむりの裁きの故とこそしれ

「テヘラン」の會合前に我計の行はれしならばと只歎くのみ
(「テヘラン」「ヤルータ」会議に関するホプキンスの手記を読みて)

月淸く薩摩濱邊に友つどい幼な昔を盡きずに語る

城山の崖にかゝりし櫻花あだに匂ひて眺めて飽かぬ

菊の花の咲きつらねたる見晴らしに舞ふや告天鳥(ひばり)の我を忘れて

箱庭に立てる篠のゝ月影に動くすがたのらうたけきかな

夕野の月夜を淸み梅の花小峯の宿に匂ひ渡りつ

つゆ晴れの月夜に咲ける藤の花吹き來る風に水の面に舞ふ

我庭の小隅に咲ける桃の花紅(くれない)匂ひ照りて輝く

颱風の去りたる朝の靜かけくさやけき光り天地に滿つ(九月十七日)

滿天の星を眺めて天地の無限の力をおろがみてあり

世の動き運賦と見べきこと多し末(すゑ)の定めに心騒がず(個人と大衆の関係につき)

冬は來ぬ麻布の児等はまさけくや巣鴨の住居寒さ身に沁み

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