憂きことを 二とせ餘り 牢屋にて 過し来りぬ 朝夕に 心を紊す 束縛の とみに多ければ 内わなる
魂こそは 大鳥の 大空の邉に 羽搏きて のぼり行くごと 勢ひの たけけくあれど 旅人の 高き山根に
故郷を かへり見するごと 過ぎ行きし くさぐさのこと 且又は 来るべき世の すがたをも 思ひ浮べつ
春雨の 大地に入りて 諸草を 霑ほすがごと 我胸に 思ひの花を とりどりに 育て上げたり
夜な夜なに 眠れぬ時し ありとても 書きしるすべき 鉛筆も 物見るめがねも 夕な夕なに 持ち去られ
我辺になくに 夜の明けて後 そこはかに しるしたるぞこれ
殊にわれ 稚き時ゆ 東西の 文明のすがた 較べ見て そが調整の すべもがと 心ひろめつ これこそは
わが生涯の 業なりと 思い来ぬれば とりわけて 此の方面に つき多く 思ひを馳せぬ
人の子の 育てる時と 所とは いみじくもまた 運命を さししめすかな わが育ちしは 黒潮の
めぐる薩摩潟 朝夕に 煙りたへざる 高千穂に 神代を思ひぬ 秋去れば 遠鳴る海ゆ 台風の
天地を動かし 春来れば 霞棚引く 海門に 南国を按ず 風物の 雄々しき中に 大目球 天を敬ひ
人を愛す てふ世の道を 示したる 大南洲の 遺風こそ 身にはしみたり
天地の なりにし始め 人類の 起源に付て くさぐさの 議論はあるも とことわに 空に輝く 月や星
いみじくも 花や草木に さやかなる 進化の跡 誰とてか 自然の奥に いと貴き ものを感ぜぬ 人とてやある
さればこそ 有史以来の 四千年 人類の 進歩のいとど 早くして 絢爛として 輝ける 機械文明 飛行機は
火星に迄も 飛びぬべく 原子弾こそ 人類を 地獄に迄も 苦しめむ 科学の進みは 人類の 心の進歩を
上へ走り 世に禍ひを 齎せし 基とはなれるも いまははや 止むなきやこれ
などか世の 人の運命の 奇しくして 其為す業の はかなしや 戦に勝てる 為ならで 戦をなくする
為の公事 なりと声高く のらせしに 暇もあらせず 第三次 世界戦争 不可避とぞ 叫びちらして
御互に 相手の罪を 数へあげ 今度の戦こそ ボタン一つ 押してたゞちに 始まること と公言しつ
且つは又 原子爆弾 黴きんと 使用禁止の 約束に かゝはることなく 公然と 使用すべしと
説き立てゝ 戦さの瀬戸に 押て来し ものとぞ見ゆる
これもよし 時の動きと 且つは又 諸大国の 不可避的 状勢と 見るべきなれど 裁判の
目あてと呼びし 戦さの廃棄は これはそも 如何なりたる 又かゝる 動きのさまに 司直者は
耳を掩ひてか 判決に いそしみ居るや たわごとの さても空しき 業なれや 時に折に不図
われはなど こゝにありやと いぶかしみ 世のしれごとを あざ笑ふ ことのあればこそ ああこれ
勝ちし国の 己れらに 都合よかれの 業にして 神の目よりせる 正義のしるし 今はまた
何処にぞありや 思へ人々
世の人の 尊敬と信頼を 裏切りて 本務にいそしまず 敵国の 能力(ちから)を無視し 古びたる
日露戦争の 隋性にて 進歩せる 戦術を 考ふる愚かさ 政治上の 欲望のみ 強く働き
民衆を 眩惑するに 巧みなり 戦さに敗けはせずと 公言せし 其無知と無責任は いみじくも
緒戦に酔ふて 自己の権勢を 固めんと 反抗する者は 府中宮中団結して 排除す すめらぎも
遂には軍の云ふ所信じ難し とさへ仰せらる かゝる軍部の 空疎な頭 自衛的権勢欲に 国の運命を
託せしことの 如何に不幸なりしよ
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